norika_blue

1999年生まれ

Quotes & musings (16)

 

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写真は、バレエ後のスムージー。It's the best ! 

 

ドルジェル伯の舞踏会/レイモン・ラディゲ

 

・だが、彼らは互いに似ているから友情で結ばれたのだと無邪気に信じていた。事実は、友情が彼らを可能な範囲で似させたのだ。

 

 

 

・彼は自分のことを口が堅くて慎み深い人間だと思っていた。だが、実際は何かにつけてこそこそとつまらない隠しごとをしているだけだった。彼は自分の生活をいくつかの区分に分け、一つの区画から別の区画に移動できるのは自分だけだと思い込んでいた。

 

 

 

・一組の男女が踊っているのを見れば、その男女などの程度気心の知れた中なのかがすぐに分かる。ドルジェル伯夫妻の息の合った動きからは独特の一体感が伝わってきた。この一体感を生み出せるのは愛だけーと言いたいところだが、じつは「習慣」にもそれは可能だ。

 

 

 

・(フランソワは)自分の心を厳しく調べようと尋問を開始した。彼は正直でありたいと願い、心の奥の奥まで探ったが、そのためかえって、真実とはかけ離れたことを自分に言わせようとしてしまった。

 


 

・人間は海のようなものだ。いつも胸に不安を抱えている人もいれば、地中海のようにたとえ時化(しけ)てもほんの一ときだけで、かならずまた凪いだ状態に戻る人もいる。

 

 

 

・「変な具合に頭を働かせる奴だな」(中略) 「ポールは小説の良し悪しを判断するときと同じ目で人生を見ている」

 

 

 

・フランソワにとっては黙ったまま一緒にいられるのが一番の喜びだった。普段の彼女は何か意味のない言葉を口にして沈黙を破ろうとしたが、この日はそういうこともなく、彼はそのことに感謝した。だが、アンヌがこの沈黙を別離につきものの憂鬱な気分の表れととり、少し場を盛り上げようとしてせっかくの雰囲気を台無しにした。

 

 

 

・フランソワは孤独な生活を送っているおかげで、諸々の雑念が取り払われていくように感じていた。以前ほど感情に流されずに物事を判断できるようになり、その結果、前より公正な人間になった気もしていた。

 

 

 

・もっとも、義務感というのはさまざまな成分がブレンドされてできたもので、その味が分からないのは味覚を欠いた者だけなのだが。

 

 

 

・フランソワは一人きりでも退屈しなかった。どんな怠け者でも「こればかりは己の義務と心得て…」と考えて実践するあれこれの気晴らしでもって一人きりの無為の時間を満たす必要も感じなかった。朝日を浴びて窓の鎧戸が明るむと、彼は「これでまた一日が終わる」と考えた。実際、朝が来れば、じきにゆうべが訪れるのではないだろうか?こんなふうに日々が流れ去っていくことに、彼は少しも気を滅入らせたりはしなかった。

海で浮き身をするときのようにこの土地の静けさに身を任せていたのだ。

まるであらゆるものが彼に落ち着きとか安らぎとかいったことを教えようとしているかのようだった。ある晩、部屋の木製のバルコニーから、松林が燃えているのが見えた。彼は慌てふためいて海辺に駆け下り、漁師をつかまえ、いったいどうしたのかと訊ねたが、漁師が怪訝そうな顔をしているのを見て、取り乱したのが恥ずかしくなった。正しいのは漁師の方でないだろうか?彼は漁師に倣い、ごく普通の風景を眺めるように、例えば夕日でも眺めるように火事を眺めた。

 


(解説)より

・「目につく」ようなシックはシックではない。そう考えるポール・モーランのセンスをラディゲはまちがいなく共有しています。実際、ラディゲはエッセー「偉大な詩人たちへの助言」の中で「真のエレガンスは人目を引いてはならない」等と述べていますし、『ドルジェル伯の舞踏会』の執筆メモにはこう記されています。

 


文体について。エレガンスというものが一見、下手な着こなしをしているように見えなければならないのと同じ意味で、下手な文章の作法。

 

 

 

・(ラディゲは) この世には、「悪徳がはりめぐらせる策略」よりもさらに不思議なもの、面白いものがあるのではないかと問うのです。悪徳から遠く隔たった「純粋な魂」も、じつは無意識のうちに奸計を弄しているのでないか。当人が知らず知らずのうちに用いる詐術や偽計ほど興味深いものはないのではないかーこんなところが彼の見当です。