norika_blue

1999年生まれ

Quotes, musings (11)

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(空豆の入ったクラッカーと、りんごの紅茶でおやつ。)

 

 

なにかが首のまわりに

/チママンダ・ンゴズィアディーチェ 

くぼたのぞみ=訳

 


短編集だから、それぞれの題を書く

 


ひそかな経験

 


・静かに泣いている。肩が上下している。チカの知っている女たちがやるように、”こんなことは独りでは耐えられないから抱いて慰めてちょうだい”と烈しく叫ぶのではない。(その)女が泣くのはその人だけのひそかなもので、やらねばならない儀式を、他人には関係のない儀式を執り行なっているよう。

 

 

 

BBCからラジオから流れる声が、死者と暴動についてー「少数民族間の緊張の背景にある宗教的なもの」と述べるのをチカはあとから聞くことになる。それで彼女はラジオを壁に投げつけ、あれほど多くの死体のことを、わずかなことばに押し込めて、都合の悪い部分は削って無菌化してしまうやり方に、烈しく、燃えるような怒りが全身を駆け抜けるのを感じることになる。

 

 

 

なにかが首のまわりに (表題作)

 


・夜になるといつも、なにかが首のまわりに巻きついてきた。ほとんど窒息しそうになって眠りに落ちた。

 

 


・アフリカを過度に好きな白人とアフリカを全然好きじゃない白人は同じー腰は低いが人を見下す態度を取るからだ。ところが彼は、メイン州コミュニティカレッジでアフリカの脱植民地化についてクラス討論をしたとき、コブルディック教授がやったように、偉そうにに首を横に振ったりしなかった。自分が知ってる民族について、当の民族よりずっとよく知ってると思い込んでいる人の表情をしなかったのだ。

 

 


・明るい光のなかで見ると、彼の目がエクストラ・ヴァージン・オイルの色をしていることに気づいた。緑色がかかった金色。エクストラ・ヴァージンのオリーブオイルはきみがアメリカにきて、たったひとつ、心の底から気に入ったものだった。

 

 


・彼は肉を食べなかった。動物を殺す方法が正しくないと考えていたからだ。

 

 


・彼がナイジェリアへ行って、ナイジェリアを、貧しい人たちの生活をぼんやりながめてきた国のリストに加えるのも嫌だった。そこの人たちは「彼の」生活をぼんやりながめることなどできはしないのだから。

 

 


・成長するトウモロコシの穂軸に揺れる房みたいに柔らかくて黄色い彼の毛、そして枕の詰め物のような弾力のある黒っぽいきみの毛。彼の肌は太陽にあたりすぎて熟れた西瓜のようになり、その背中にきみがキスしてローションをすり込んだ。

きみの首に巻きついていたもの、眠りに落ちる直前にきみを窒息させそうになっていたものがだんだん緩んでいって、消えはじめた。

 

 


・きみはまわりの人たちの反応から、きみたち二人がふつうではないことを知ったー(中略)黒人の男たちのなかには、きみを許そうと努力するあまり、彼にあからさますぎる「ハーイ」をよこす人もいた。白人の男女のなかには「すてきなペアだこと」と、いかにも明るく、大声でいう人もいた。まるで自分の偏見のなさを自分自身に納得させようとしてるみたいに。

 

 

 

アメリカ大使館

 


・息子は殺されました。それ以上はいうまい。殺されました。あの子が笑うとき、頭のうえのほうから、甲高くチリンチリンという笑い声が響いてきたことなど絶対にいうまい。お菓子やビスケットのことを「ブレッディ・ブレッディ(まんま・まんま)」といったこと。抱きあげると母親の首をぎゅっとつかんだこと。夫が、この子はアーティストになるな、だってレゴブロックを、組み立てないで、互い違いに、色別にひとつひとつならべているよ、といったこと。この人たちにそんなことを知る資格はない。

 

 

 

結婚の世話人

 


・冬が忍び寄ってきた。ある朝、アパートの建物の外へ出て、わたしは思わず息を飲んだ。まるで神さまが白い綿をちいさくちぎってまき散らしているみたいだった。

 

 

 

熱帯安楽椅子 / 山田詠美

 


私が山田詠美さんの本を初めて読んだのは高校生の時。「僕は勉強ができない」を読んで衝撃をうけて、「放課後の音符」「風葬の教室・蝶々の纏足」も立て続けにマイバイブル。だから、山田さんのファンだという綿矢りさ村田沙耶香の巻末対談は「ほんとそれな👏👏」と思いながら読んでた。

 

 

・肉体は売っても心は売らない。

 

 


・ユージンはとても美しい。そして、私の好きな何かを諦めたような表情を浮かべている。

 

 


・認めるということは少しだけ愛すこと。私は自分に向けられたその行為が嬉しい。私は色々なものを認めて行くだろう。そして、それをやさしい気持ちで受け止めて行くだろう。

 

 


・私は、朝だというのにシャンペンを頼む。少しあきれた表情のウェイター。いいじゃないの。私は目を開いたままでうたた寝をしたいのよ。

 

 

 

・嫉妬は、私の場合、肉体から生まれた。肉体を束縛したいと思うことから始まっていた。今、この島で私はそうは思わない。私は瞬間という言葉を愛する。それは、空気であり、それを作り出す男の肌であり、私へのいたわりに満ちた男の瞳であり、それを受け止めることのできた時の雨、あるいは太陽の陽ざしである。

 

 


・私たちは、皆、何かひとつを諦めなくてはならない。そして、愛は何かを諦めた時に人を満足させるものだ。

 

 


・私は誰のものにもならない。そして、誰のものでもあるのだ。私は、このことに強い確信を持っている。

 

 

 

 

巻末の、綿矢りささんと村田沙耶香さんの対談

 


村田さんは山田詠美さんの本を常に3、4冊鞄の中に入れて持ち歩いていたらしい。

 


綿矢 : じゃあ、村田さんにとって、山田詠美さんの世界はすでに知っている世界、という感じだったんですか?自分を取り戻すっていうことは。

村田 : うーん、何だろう。山田詠美さんに教わった世界だけれど、小さいころからきっと体にはあった世界を初めて言葉で教えてもらって取り戻すという感じがしました。

 


(中略)

 


村田 : 綿矢さんは、自分の小説。書くときに、山田さんの影響を受けているということってありますか?

 


綿矢 : ああ、それはやっぱり表現ですね。恋愛も含めて叙情をどう表現ふるか。本を書く上でそれが非常に私は大事だと思っていて、本とはそういうものだという感覚があるんですが。こういうふうに世界を見ていくことによって、ひとつの自分なりの表現の世界を構築するというようなこたは、やっぱり山田さんの本で学んだなと思います。

具体的に言えば、「学問」にも「風葬の教室」にも、主題の中に田舎の風景が出てくる。雑木林とか、レンゲ畑とか。そうした木々や花の描写だけだったらたなきれいなだけかもしれないけど、生きる密度が濃い人たちの心の揺れがある中でそういう描写があると、景色自体が胸に痛いような感じで刺さってくる。

 


村田 : 「熱帯安楽椅子」の風景描写も、かなり心情描写に近いですよね。

 


綿矢 : そう。雨が降ってきたとき、ただの風景じゃなくなるんです。そういうところはすごく影響されたし、そういう小説を書きたいなっていつも憧れていますね。

 

 


村田 : ほんとにどのフレーズも、手を抜いている言葉が絶対にない。言葉の隅々まで美学が行き渡っている。作家としての覚悟を感じますよね。自分がこうして作家になってみて、ずっと自分に問いただしています。本当におまえはそれができてるのかって。文章、句読点ひとつにしても、ちゃんと自分の美学で文章の隅々まで言葉を選んでいるのかっていうことを自分にといただしているか。その意味では憧れと同時に、自分を戒める時に頭に浮かぶ存在でもありますね。自分が恥ずかしい文章を書いたりしないように、最大限努力していきたいって思う。そういう存在として影響をつけている気がします。

 


村田 : 山田詠美さんの主人公って、ずっと体の声に正直に耳を傾けている。体の声に耳を傾けることは、全然嫌らしいことではなくて、すごく誠実なことのような気がして、自分の主人公にもそうあってほしいし、そういう肉体を持っていてほしい。理論先行じゃなくて、ちゃんと体がある主人公にしたいとか、そういうふうに思うのはやっぱり山田詠美さんの影響だとは思います。