norika_blue

1999年生まれ

Film Diary : 荒野にて

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パート1 映画についての小話

昨年(2018年)は最高な映画にたくさん出会えたけど、同時に映画にも本にも集中できない時期が何度かあった。ふわふわ心が浮いてる感じで集中できない感じ。そういうときは何を観ても読んでも面白くないし、好きで読んだり観たりしてるわけだから、ただ読むのも観るのもやめてた。(だから2018年の私が好きだった映画や本はその「ふわふわしている時」「じゃないとき」に観た/読んだもの)


ふわふわと浮いてないときは、例えその本や映画が「面白くない」としても、「じゃあなぜ面白くないのか」「自分だったらどう面白くするか」を考えることができるのに、それもできないから「ただ面白くない」というのが続いてた。


でも2019年はそのようなことが少なくなった。自分の中でdesciplineを定めた(というか策を立てた)のが大きいと思う。ふわふわして何にも集中できないときはどういうときなのか、を知ればそのふわふわを防げる。


AMYWAY, これについてはまた今度書くとして、


2019年もまたまた最高な映画にたくさん出会った。まずは、「荒野にて」。


これは、映画館で2回観た。その後、原作とその日本語訳の小説も買って読んだ。

 

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パート2 「荒野にて」について

 

簡単なあらすじ

15歳のチャーリーは父親と2人暮らし。競走馬ピートの世話を始めるが、それもつかの間ある日父親が亡くなってしまう。そんな中、試合に勝てなくなったピートも殺処分されることが決定される。チャーリーはピートをつれ、唯一の親戚である叔母に会いにいく。


この映画は本当に素晴らしいんだけど、特にこの映画を忘れられないものとしているのが、主演チャーリー・プラマーの演技、空気の匂いまで伝わってくるシネマグラフィ、そして使われている音楽全部だ。


俳優チャーリー・プラマーくん(この映画の主人公の名前もチャーリーで紛らわしいから、以後プラマーくんでいこう)は、「King Jack」で一昨年の春休みに観てその演技に驚かされたけど「荒野にて」のプラマーくんも圧巻だった。この映画のチャーリー(主人公)は感情があまり表情には出ないし、たくさん話すわけではない。でもチャーリーは、自分の気持ちを押し殺しているというよりは、そうすることで自分の感情とずっと対話してきたようにみえる。チャーリーのもつ静けさや穏やかさと、孤独と、力強さの全てをを一つのキャラクターの中に共存させるのは、なんと至難だっただろう。話し言葉や動作に頼れないからこそ、細かい顔の筋肉一つ一つの動きや呼吸のスピードまでがキーとなる。プラマーくんはそれを見事にやってのけた。特に、ピートが売られるとわかったシーンのチャーリーの表情は、忘れられない。


ふたつ目は、シネマグラフィー。映画館の暗い空間に一番はじめにあらわれたその1カット目から、この映画好きだと確信した。まるで自分の肌がその映画の中の空気に触れているような感じ、空気の匂いがするような感じだった。チャーリーが歩いているときの広くて淡い色の空や、生命力のあるしげった広原はもちろんため息をついてしまいそうなくらい美しかったけれど、最初と最後の小さな町のシネマグラフィーが、私はとても好きだった。町の方が、荒野よりずっと静かに淡々として寂しく映っているのもまたこの映画の秀悦なところだと思った。

 

正直「イントゥ・ザ・ワイルド」とは全く違う。イントゥ・ザ・ワイルドは金持ちの息子が自分の意思でお金も物も捨てアラスカの果てを目指す話だが(イントゥ・ザ・ワイルドも私の大好きな映画だが)、チャーリーは自分探しの旅になんか出ていない。そんな主体的な欲望からのものではない。


チャーリーは強制的に荒野に放り込まれたんだ。もし叔母がいなかったら、誰がチャーリーを助けたんだろう。誰にチャーリーはLean on することができたのだろう(原題は、Lean on pete) 。そのことが頭から離れない。途中で出てくる大人たちは、チャーリーのことを気にしてはいるんだろうけれど、チャーリーが逃げだすのも最もだと思う。話を聞くことよりも、親がいることが当たり前という前提の話しかいないし、いないとわかればすぐ施設に連れていこうとするだろう。


チャーリーは、「なんだか分からないひとに(大人)に捕まりたくない」ということだけでなく、大人たちに「孤児」や「迷子」などのレッテルだけでみてほしくなかったんだと思う。(街で出会ったメキシコ人は、そんなことはなかったかもしれないが、映画をみた人ならわかるがまた別の問題が彼にはあった。)


この題の「荒野にて」には2つの意味があると思う。1つは、文字通りの荒野。もう一つは社会という名の荒野。チャーリーはその両方の荒野に放り出されたから、ただ歩くしかなかったんだと思う。賛否両論あるが、私はこの「荒野にて」という邦題はとてもいいと思う。


この映画の3つめの素晴らしいところは、音楽全般。どうやってこんなにぴったりな音楽を見つけてきたんだ!!!というレベルで素晴らしい。特にA way with words (by Robert Plant)、Easy Run (by Richard Fountaine)、The World’ Greatest (Bonnie “Prince” Billy)の三曲!!SO GOOD.